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奈良簡易裁判所 昭和37年(ろ)114号 判決 1963年11月18日

被告人 森口潔

大二・七・一〇生 旅館組合事務員

主文

被告人を罰金五、〇〇〇円に処する。

この罰金を完納することができないときは金五〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

被告人に対し公職選挙法第二五二条第一項所定の五年間選挙権および被選挙権を有しない旨の規定を適用しない。

訴訟費用のうち証人平本留吉、同村井伊十郎、同永井政次(以上三名の分は昭和三八年四月一七日第三回公判期日において取調べ支給した分、)同八木亀次、同平井邦夫、同深見成計(以上三名の分は同年五月二〇日第四回公判期日において取調べ支給した分に限る)に支給した分はこれを被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は昭和三七年七月一日施行の参議院議員選挙に際し畠山鶴吉が全国区から立候補すべき決意を有することを知り未だ同人の立候補届出のない同年五月七日頃情を知らない小賀千代子をして別表一覧表記載のとおり奈良県生駒郡生駒町大字菜畑二五一七番地平本留吉外一〇名に対し右選挙の選挙人に頒布させる目的で畠山鶴吉の写真を掲載した同人の名刺合計約二、七七〇枚を一括郵送させて頒布し、もつて立候補届出前の選挙運動をしたものである。

(証拠の標目)(略)

(法令の適用)

法律に照らすと、被告人の判示所為は公職選挙法第一二九条に違反し同法第二三九条第一号に該当するので、所定刑中罰金刑を選択し、その罰金額範囲内で被告人を罰金五、〇〇〇円に処し、被告人においてこの罰金を完納することができないときは、刑法第一八条に従い金五〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし、公職選挙法第二五二条第一項により被告人がこの裁判確定の日から五年間選挙権および被選挙権を有しないこととなるが、諸般の情状に鑑み、同法第二五二条第四項により右第一項の規定を適用しないこととし、訴訟費用については刑事訴訟法第一八一条第一項本文に従い主文第四項のとおり被告人に負担させる。

(法定外文書の頒布の訴因に対する判断)

本件公訴事実中の判示名刺の頒布が法定外文書の頒布にあたる旨の主張につき判断する。

公職選挙法第一四二条第一項たいう「選挙運動のために使用する文書」とは、同法第一四六条の規定との関係上、昭和三六年三月一七日の最高裁判所判決にあるとおり「文書の外形内容自体から選挙運動のために使用すると推知されうる」ことを要し、且つこれで足ると解され、頒布方法が選挙運動のために使用すべくなされるか否かは問わないものと解するのが相当である。蓋し同法第一四二条を右のように解しないと同法第一四六条で、第一四二条の禁止を免れる行為として、公職の候補者の氏名を表示した文書およびこれに類する文書について、選挙運動期間中の頒布だけを禁止した趣旨が無意味となるからである。

ところで押収してある本件名刺には「全国旅館同業組合連合会常任顧問、元衆議院議員、つるやホテル社長」という肩書と写真および住所電話番号を記載してあり、その肩書および写真の記載から通常の名刺使用以外の何らかの目的を推知させる点はあるが、その「元衆議院議員」という文言からさえも選挙運動を推知させることは明瞭でなく、且つ本件直後の参議院議員選挙に関係のある文言は何らの記載がないので名刺の外形内容自体からは前述の参議院議員の選挙運動のための文書とみることはできず、また選挙期間前に頒布したことが明らかな本件においては、これを同法第一四六条にいう「第一四二条の禁止を免れる行為」とみることもできない。従つてこの点についての被告人の所為は犯罪を構成しないものといわなければならない。

ただ前顕各証拠を綜合すると、判示の本件所為は結局一般有権者の意思決定に対して働きかけ投票獲得の効果を期待した事前運動の行為と認定することができ、この罪と前記法定外文書頒布の所為とは一個の所為にして数個の罪名に触れる関係にあるものとして起訴されたものであるから法定外文書頒布の点につき主文で特に無罪の言渡をしないこととする。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 鎌田泰輝)

一覧表(略)

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